ホモ牛乳

下品なことを言う係です

アンドロイドは誰だ

 

 


部屋の真ん中に置かれた三つの椅子は、中央を向くようにトライアングルに設置されており、僕はその一つに腰を下ろしていた。 
残りの二つにはそれぞれ男女が座っている。だるそうに座る今風の男と、足を組んで座るキリッとした女性。雰囲気から察するに面識はないようだった。僕らは全員初対面ということだ。 


「では始めてくれ」 


白い殺風景な部屋には椅子の他にコンピュータが三台置いてあるだけだった。複雑に絡み合ったコードだけがこの空間で唯一の混沌に思えた。 
コンピュータを前に座る白衣を着た眼鏡で長髪の教授は、男にも女にも見えた。声を聴いても区別はつかず、これが終わったらそれとなく聞いてみようかと思った。 


「んじゃま、自己紹介でもしておくか」 


男が提案する。 
無気力感を漂わせているが、意外とリーダーシップがあるのかもしれない。 


「俺はスガヤマ。法学部2回生ね」 
「サトイよ。教育学部3回生」 
「今度合コンしない?」 
「お断りするわ」 
「そりゃ残念」 
「ぼ、僕は文学部2回生のタカハシです」 


自己紹介が終わると沈黙が部屋を支配した。 
微かなコンピュータの稼動音だけが唯一沈黙に対抗している。 


「で、この中に本当にアンドロイドとやらがいるわけ?」 


スガヤマが教授に顔を向けて聞く。 
大学の掲示板で見つけた心理学の実験のアルバイト。その実験が「この中からアンドロイドを見つけ出す」というものだった。但し、相手の身体に触れることは禁止らしい。 


「この中にアンドロイドはいる。お前達がそれを見つけ出すんだ」 
「アンドロイドは自分をアンドロイドだと認識しているのかしら?」 
「していない。本人は人間だと思っている。そうプログラムされている」 
「わははは。滑稽だな」 


スガヤマは自分を人間だと思っているアンドロイドを滑稽だと言ったのか、それともアンドロイドなどと真顔で言う教授を滑稽だと言ったのか、わからなかった。 
心理学の実験というから、本当はアンドロイドなんていないんだろう。 
ただ、そういう状況設定の下で僕らがどのようにアンドロイドを探そうとするのかを参考にするのではないだろうか。 


「よ~しじゃあアンドロイドのやつ手あげてくれー」 
「馬鹿なの? 挙げるわけないでしょ。自己認識してないんだから」 
「こ、こういうのはどうかな? アンドロイドっていうくらいだから計算が速いんじゃない? 全員で何かを計算するとか」 
「俺は計算は苦手だ。つまり俺はアンドロイドじゃないな」 
「私はフラッシュ暗算で表彰もされたわ。だからといってアンドロイド扱いは不服よ」 
「身体能力は? アンドロイドなら力強いんじゃないかな?」 
「腕相撲でもするか? 身体に触れるのは禁止だったな。バーベル上げでもしにいくか?」 
「アンドロイドが力強いなんて保証はないわ。意味無いわよそんなことしても」 
「身体に触れるのが禁止ということは、触れたらわかるってことだ。例えば柔らかいはずの胸が硬いとかな」 
「何が言いたいの」 
「全員で全裸になるのはどうだ? 何か見つかるかもしれないだろ」 
「下品な発想」 
「人間は下品なんだよ。俺は人間だからな」 


その後も議論は続いたが、進展は無かった。 
アンドロイドである証が何か、それがわからなければ答えは出ない。 


「苦戦しているな。ヒントをやろう。アンドロイドは"嘘"がつけない」 
「なんだ。じゃあ簡単じゃないか。嘘を言えばいい」 
「嘘?」 
「自分はアンドロイドじゃないと宣言するのさ」 


アンドロイドが「アンドロイドじゃない」と言うのは、明らかな嘘だ。 
これは有効かもしれない。 


「俺はアンドロイドじゃない」 
「私はアンドロイドじゃないわ」 
「僕はアンドロイドじゃない」 
「全員言えたわね」 
「つまり、この中にアンドロイドなんていなかったわけだ。そうなんでしょ教授?」 
「この中にアンドロイドはいる」 
「でも全員嘘をつけましたよ」 
「お前達にとって"嘘"とはなんだ?」 


哲学的な問いだった。 
嘘とは何か? 嘘は、嘘だろう。事実と違うことだ。 
では事実とは? これでは禅問答だ。 
僕が言葉の迷路を彷徨っている間に、サトイさんは新しい答えを見つけたようだった。 


「もしかして、私達は最初から騙されていたんじゃないかしら」 
「騙されていたって?」 
「教授はこの中にアンドロイドがいると言った。私達三人の中とは言っていない」 
「ヒュー♪ この中……この部屋には四人の人間がいるってわけだ」 
「教授、貴方がアンドロイド。そういうことではないですか?」 
「面白いな。しかし私はアンドロイドではない。アンドロイドはお前達三人の中にいる」 


振り出しに戻った。 
僕は僕なりの迷路の出口を提言する。 


「教授が"嘘"とは何かって言ったから考えてみたんだけど、嘘ってことは認識とは逆のことじゃないのかな」 
「どういうことだ?」 
「人間だと思ってるアンドロイドがアンドロイドじゃないと言っても、それは本人の認識と一致しているから嘘にはならない。本人は事実を言ってるつもりだからね。だからさ、さっきと逆のことをしてみようよ」 
「アンドロイドだって宣言するわけか」 
「うん。そういうこと」 


重要なのは人間とアンドロイドの区別ではなく本人の認識。 
アンドロイドだと宣言すれば、自分を人間だと思っている者にとって"嘘"になるはずだ。 


「俺はアンドロイドだ」 
「私はアンドロイドよ」 
「僕はアンドロイド……じゃない」 


あれ? 


「おいおい、マジかよ……」 
「本当にいたのね」 
「ちょちょ、ちょっと待って! 僕はアンドロイドじゃない!」 
「じゃあアンドロイドだって言ってみろ」 
「僕はアンドロイド……じゃない!」 
「決定ね」 
「言ってるじゃないか! 僕はアンドロイドじゃないんだ!」 


僕はアンドロイドじゃないぼくはアンドロイドじゃない。どうしてどうしてどうして? 


「オーケー! そこまで! 協力ありがとう。これで実験は終了だ」 
「教授、面白かったですよ」 
「これだけで金もらえるなら、まぁ割りのいいバイトだな」 
「タカハシ君はサクラですか? それとも本物のアンドロイド?」 
「ぼくはアンドロイドじゃない!」 
「最後に正解を発表しておこう。アンドロイドはお前達全員だ」 


教授がコンピュータを操作すると、突然、スガヤマとサトイさんがその場に倒れた。 
まるで電源が切れたかのように……。 


「新種のウィルスが流行っていてな、感染したアンドロイドは"嘘"をつけるようになるんだ。感染者を見つけることと、特別状況下のデータ採取が目的だったんだが……失敗だったな」 
「ボクハアンドロイドじゃナい」 
「身体に触れると感染してしまう恐れがあったから禁止したんだが……結局この方法では正常者の自我が崩壊してしまい駄目になるな。残念だ」 


きょうじゅがコンピュータをソウサするのがミエた。 
フタリのようニボクモたおれる? ソンナワケナイ。 
だってボクハアンドロイドじゃナイボクハアンドロイドジャナイボクハアンドロイドジャナイボクハアンドロイドジャ────

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