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ホモ牛乳

下品なことを言う係です

アリス

 


 ユッコはおばあちゃんの家が嫌いだ。まず場所が気に入らない。そこは畑と森以外にはなんにもない田舎なのだ。見た目にもなんだかぼろぼろで古臭いし、ところどころカビくさいし、夜、風が吹くと木戸はがたがたするし、雨の日は雨漏りするし、それになによりトイレが外で水洗でないのだ。だからお母さんから連休をそこで過ごすと聞いてユッコはがっかりした。もちろん彼女は両親にしつこく不満を訴え続けたのだが、結局予定が変更されることはなく、ユッコは暗い気分で連休を迎えたのだった。

 

 「あーあ。つまらないなあ」


 縁側で、朝からもう何度目になるかわからないため息をつく。実家に着いたのは夜中だったのでまだ眠い。早起きの家族にたたき起こされて、その上やることもないので、むくれながら足をぶらぶらさせていた。本当は宿題や手伝いなどやるべきことはいくらでもあったのだが、もちろんそんな気分にはなれない。
 「裕子」
 台所に居るお母さんが呼んでいる。ピンときた。あれは何かを言いつけるときの声色だ。ちなみに、お父さんとおばあちゃんは裏の畑で農作業をしているらしい。
 「なあに、お母さん」
 「売店はわかるでしょう、みりんとお味噌を買ってきて」
 「おつり、もらってもいいなら行くよ」
 こう言うと、いつもお母さんは500円くらい余るようにお金を渡してくれる。チョコレートとコーラを買って帰ろう。ストレスをかいしょうしなくっちゃ。難しい言葉を使ったなあ、と思ってユッコは少し楽しくなった。

 買い物はあっさり終わった。お菓子を買ったのにおつりが200円もあまっている。すっかり上機嫌になったユッコは、鼻歌を歌いながら田舎道を歩いていた。そして、家が近くなってきた頃、彼女は飽き飽きしていた風景の中に見慣れないものを見た。

 

 お話の中に出てくるような家だった。西洋風の白い壁に、赤レンガ色の屋根。庭の芝生がきれいに手入れされていて、すみっこには小さい花壇もあった。白いブランコまであって、ユッコはまるで冗談みたいだな、と思った。さらに驚いたのは、その家の中からこれまた冗談みたいな格好の女の子が出てきたことだ。
 「こんにちは」
 「あ・・こんにちは」
 にこやかにあいさつをされて、ユッコもあわててあいさつを返す。長い髪にカラフルなリボンのついたヘアバンド、すそがひらひらした可愛らしいワンピース。この家がなかったら完全に浮いてしまっていただろう。というよりも、この田舎でこの場所だけが浮いている。それでも、こんな服が着られるなんていいな、と思った。
 「あなた、あそこに見える家の子?」
 女の子はおばあちゃんの家を指して言った。ここから見るとその家が本当にみすぼらしく見えるので、ユッコは恥ずかしくなった。小声でうん、と言うと、女の子はふうん、とつぶやいて、しばらくそれを眺めていた。そして突然こう言ってきたのだ。
 「あなた、明日もここに来る?」
 一緒に遊ぼう、という意味なのだろうか?
 「別に、来てもいいけど・・」
 「じゃあ来てね、絶対よ」
 「うん、わかった」
 ちょうどユッコも退屈していたところだ。明日の予定が出来るのは嬉しいことだったから、ゆびきりして、おつかいの途中だったことを思い出して急いで家に帰った。

 

 夕食の時、食卓の窓からちらりと昼間の少女の家が見えた。あちらの家の窓もこちらに向いていて、あの子がこっちを見ている気がした。外が暗いのと家が遠いのとではっきりしない。よく見ようとあんまり長いこと眺めてたものだから、食事中によそ見をするな、と怒られてしまった。
 翌日、ユッコは約束どおり、あの子の家に遊びに行った。

 「こんにちは」
 「こんにちは、本当に来てくれたのね」
 昨日と同じようににこやかな笑みがユッコを迎え、家の中に招き入れる。少女の格好は、昨日と同じようにひらひらの服だった。
 「他の人は?誰もいないの?」
 「ええ、私以外はみんなおでかけしているの」
 家の中は広くて、外と同じようにどこもかしこも洒落ていた。花柄のカーテンが風にゆれていた。棚にはレースがかかり、白くて変わった形をしたテーブルがあった。ユッコはいいなあ、うらやましいなあ、と何度もつぶやいて、あちこちをもの珍しそうにながめていた。中でも自分の部屋だといって彼女が紹介した部屋は一番広くて、ユッコが今まで見たどんな友達の部屋よりもすごかった。タンスが三つもあって、おもちゃもぬいぐるみも人形もものすごくたくさんあるのだ。本棚は面白そうな本で埋まって、学校ではやっている漫画で一番新しいものがいくつもあった。すっかり夢中になってしまったユッコは、ここで遊びましょう、との言葉に何度もうなづいた。
 二人で人形遊びをした。多くの種類の人形があるのできりがない。ゲームもやった。ユッコは負けてばかりだった。タンスのお洋服を見せてもらって、ユッコも着せてもらった。自分ではまあまあ似合うかな?と思ったのだが、何故かこの部屋には鏡がないのでよくわからなかった。そして、本棚からいくつかの本を渡された。思わずふきだしてしまう本ばかりで、あまり読書が好きでないユッコなのにたくさん読んでしまった。
 どれくらの時が過ぎただろう。ふと気が付くと、いつの間にか部屋の中で一人になっていた。トイレの場所を聞こうと思ったんだけれど。
 「ねえ―」
 声をあげようとして、そういえばあのこの名前をまだ聞いていないことに思い当たる。仕方がないので勝手に家の中を探し回ってみた。たくさんの部屋があったけれど、意外にトイレはすぐに見つかった。けれど、あの子がいない。
 「ねえ、どこにいるの?ねえってば」
 「冗談はやめてよ。出てきてよ!」
 「いいかげんにしてよ、私帰るからね!」

 最初は、自分をびっくりさせるつもりだろう、と思ったのだが、どんなに呼んでも出てきてくれない。だんだん馬鹿にされてるような気になってイライラしてきた。それに、知らない家に一人でいるようで心細い。怒りも手伝って、どしどしと足をならしながら玄関に向った。
 「本当に帰るんだからね」
 ドアに手をかけ、振り返る。廊下に西日が差している。家の中はしんと静まり返って、ここに、自分以外の生きているものは何もいないような気がした。せめて玄関にある水槽に、魚がいればよかったのに。
 「あれ?」
 ドアが開かない。どんな鍵がかかっているのか、ノブはまわるのに押しても引いてもびくともしない。慌てて窓に駆け寄ってみたけれど、どの窓にも木の格子がかかっていて、外に出られそうにはない。どうしたらよいのかわからず、途方にくれるユッコの瞳に信じられない光景が映った。

 

 それは、ユッコの家だった。夕食の時間なのだろう、お母さんとお父さんとおばあちゃん、そして一人の女の子が食卓についている。その少女は、どこからどう見てもユッコだった。ユッコ自信が思うのだから間違いないだろう。でもどうして?
 混乱するユッコの視線の先で、ふと少女がこちらを見た。ちょうど昨日、ユッコがそうしたように。遠くてはっきりしないのに、何故かその、勝ち誇った得意そうな表情だけが見えた。私も昨日、あんな風に笑っていたのだろうか?
 それからユッコは泣き続けた。泣いて、泣いて、でも、きっと自分はもう二度とあそこへは戻れないということはわかっていた。あの場所は、私ではなく、あのユッコのものになってしまったのだ。このユッコは、ここでひとり、生きていくのだろうか。ついさっきまでこの家の主だった、あの少女のように。ユッコは腫れた目で、あたりをぐるりと見回した。

 

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 季節がめぐる。
 夏休み、親戚のお兄さんの所に遊びに行ったコウは、向いの家に住む男の子と知り合った。その少年はコウの欲しかったミニカーをいくつも持っていて・・・。

 

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