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ホモ牛乳

下品なことを言う係です

二人の文通

 

最初の手紙? もちろん覚えてるよ。
目覚めるとテーブルの上にノートが開かれて置いてあったんだ。
そこには『あなたと話がしたい』とだけ書かれてあった。

それはもう混乱したよ。
だって、誰かのイタズラでしかありえないのに、部屋のドアも窓も鍵がかかっていたからね。
もちろん僕が書いたわけではないし、父の字でもない。
そもそも父は酒を飲むか暴れるか酒を飲んで暴れるかだけの醜い生き物だ。
こんなイタズラ絶対にしないさ。
あぁ、母はいないよ。僕が5歳の時に出て行ったきりね。

じゃあこのメッセージは誰が書いたんだろう? 考えたけどわからなかった。
とりあえず無視することに決めたよ。うん。ノートは閉じて本棚に置いた。
あ、ノート自体は僕のだったからね。

翌日、目が覚めるとまたノートが開かれている。
『あなたと話がしたい。返事を書いてねビリー』
怖くなったよ。鍵はかかってる。昨日と同じ状況。しかも相手は僕の名前まで知ってるんだから。
なんとなくベッドの下とかクローゼットの中とか屋根裏とか調べたけど、何もなかった。

怖かったけど、少し好奇心もあった。
僕はノートに返事を書いて寝た。『誰?』と一言だけ。

翌日。
『返事をありがとう。わたしはエイプリル。宜しくね』

幽霊なんだなって確信したよ。
だって、それしか考えられないでしょ? 僕は元々、そういうの信じてるからね。
6歳の時、サンタクロースの姿を見ようと寝たフリをしながら我慢して起きていたことがあった。
でも現れなかった。それ以来、一度もね。きっと姿を見ようとした罰が当たったんだ。
だからずっと起きて彼女の姿を見ようなんて考えもしなかったね。

色んな話をしたよ。最初は僕からの質問ばっかり。
先生も相手のことを知りたいなら趣味とか好みとか聞くでしょ? それと一緒だよ。
彼女の姿は見えないんだから、中身を知るしかない。
あぁ、今思えば彼女から質問がきたことは無かったなぁ……彼女はなんでも知っていたから。
あとは僕が一方的に日記を書くようになった。それを読んだ彼女が感想を書いてくれる。
褒めてくれたり叱ってくれたり、いつも僕と真正面から向き合ってくれる唯一の人だよ。
好きになるのに時間はかからなかった。

そうそう、こんなこともあった。
彼女に僕の気持ちを知ってほしくて『身も心も一つになりたい』って書いたことがある。
そしたら『心は違うものだから面白いのよビリー。一つになったらつまらないわ』って言われたよ。
僕は本当に一つになりたいと思ったわけじゃなく……いや、思ったのだけれど……えっと。
上手く言えないけれど、好きという感情を少し大人びた感じで表したかっただけなんだ。
もっと素敵なセリフとかあったら教えてよ先生。僕は何度だって彼女に伝えたい。

父が殺された日?
警察にも言ったけど、いつも通りだよ。ノートを書いて眠った。
起きたら父が死んでいた。それだけだよ。

うーん、悲しいという感情はなかったかなぁ。仲の良い親子ではなかったしね。
それよりも部屋を追い出されるんじゃないかって不安の方が強かった。
僕が引っ越しをしたら、彼女もついてくる保証なんてなかったから。


********************


困ったように医師は頭を掻いた。
彼が嘘をついていないことはイノセントな瞳が物語っていた。
医師は胸が締め付けられる感覚に襲われ、ぎこちない深呼吸で平静に努めた。
そして、彼女を呼びだした。


********************


「初めましてエイプリル」
「こんにちは先生」
「ビリーは貴女に質問ばかりしていたそうね。私もいいかしら? 聞きたいことがたくさんあるわ」
「どうぞ好きなだけ」
「今、ビリーはどういう状態?」
「眠ってるわ。赤子のように背を丸くして」
「ビリーが眠っている時だけ貴女は動ける?」
「えぇ」
「ビリーの父親を殺したのはあなた?」
「えぇ」
「どうして?」
「ビリーがそれを望んでいたから」
「ビリーがそう言ったの?」
「言わなくてもわたしにはわかるもの」
「そう……。貴女もビリーの父親に憎しみを抱いていた?」
「いいえ。彼がいたからこそわたしが生まれたのだもの。わたしにとっても親なのよ。
 ただ、ビリーを傷つける人はわたしが許さない。憎しみはないけど、敵ではあったの」
「貴女もビリーのことを……?」
「もちろん好きよ。愛してるわ。わたしたちは愛し合ってるの。
 先生だって恋、するでしょう? 我慢出来ないの。わかるでしょう?
 ずっとずっとビリーを見てきたけど、見てるだけなんて辛かった。話をしたかったの。
 でも、何度話かけても応えてはくれなかった。叫んでも叫んでも声は届かない。
 我慢なんて出来るはずないわ。わたしを知って欲しかった。わかるでしょう、先生?」


********************


医師は言葉を紡ぎだすことが出来なかった。
愛されずに育った少年は、自分を愛する人格を創り出してしまった。
なにも、なにも、言えることなどない。
涙ぐむ医師とは対照的に、不思議そうに首をかしげる彼──彼女──の表情は人を愛する喜びに満たされていた。

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