ホモ牛乳

下品なことを言う係です

餅月

 


12年ぶりの再会だった。

「ただいま、父さん」
「あぁ。元気だったか」

事務的な挨拶がしたいわけではない。しかし会話が続かない。
12年という月日はお互いの間に壁を作るには十分すぎた。

お互い大きな耳をピンと立てて音を吸収していた。
低くなった息子の声と、少ししゃがれた父の声。
自分では気づかぬ変化に相手は気づき、過ぎ去った時間の長さを再確認する。
五感で得た情報を心の中でろ過し、抽出された相手の情報を身体に染み込ませる。

「父さん、痩せたね」
「お前はでかくなったな。腕なんて俺より太い」

息子は豪奢な御輿のような乗り物にのって帰ってきた。
父はそれを見て複雑な気持ちになったが、決して嫌悪の感情ではなかった。
息子は『餅月』の役目を終えたのだ、その事実だけを受け止めた。


12年に一度。卯年になる前日の大晦日。『餅月』は交代する。


地球には巨人と小人が必要だ。
巨人は船のハンドルを横にしたようなものをグルグル回し続け
小人は何千も繋げた自転車のようなものに乗りペダルを漕ぎまくる。
そうやって自転や公転を助け地球を維持している。

同じように月には兎が必要だ。
兎が餅をつくことで月は維持されている。餅をつく衝撃で地球の周りをぐるぐると周る。その役目を担うのが『餅月』だ。
選ばれた兎は地球から月へ移住し、餅をつき続ける。

「母さんは……元気だったか?」
「うん。とても元気だよ。父さんのこと心配してた」

息子は泣きたいのか笑いたいのかわからない表情をしてみせた。
父は想う。二度と会うことのできない妻を。
しばし、月を眺めながら最愛に想いを馳せる。あぁ、かぐや姫よ。

 

父が『餅月』に選ばれて月へ行った際、出会ったのがかぐや姫であった。
愛し合った末、息子が生まれた。しかしそれは御法度だった。罰として二人は引き離された。
父が『餅月』として月にいる期間、かぐや姫は息子と共に地球へ行くことを余儀なくされた。
そして父が地球へ帰還すると同時に、かぐや姫は息子を置いて月へ帰っていった。
もうどんなに五感を使っても最愛を感じることは叶わなかった。
父は月を眺め「貴女も今地球を眺めていますか?」と問いかけるのが精一杯だった。

二兎を追う者は一兎を得ず。
父には息子だけが唯一の救いであり、もう一つの最愛だった。
どちらも失わなかっただけ感謝しようと言い聞かせた。

「父さん、もうすぐ新年だ。約束は覚えている?」
「あぁ、もちろんだとも。準備はできているよ」

父が指差した場所には臼がドッシリと鎮座し杵がそれに寄りかかっていた。

『僕が帰ってくる大晦日、一緒に餅をつこうよ父さん』

あの日の約束を忘れた日などなかった。
どんなに待ちわびただろうか。この瞬間を。

 

ペッタン ペッタン

息子がつく

ペッタン ペッタン

父がこねる

ペッタン ペッタン

歳月が築いた壁を

ペッタン ペッタン

壊すようにつき

ペッタン ペッタン

失った歳月を

ペッタン ペッタン

埋めるようにこねる

 

掛け声の必要もないほど息はピッタリだった。

「さすがだな」
「父さんこそ、衰えてないね。こっちはさっきまで現役だったのにさ」

出来上がった餅を試食する。
『餅月』を遂げた者同士で作った餅が失敗しているはずもない。

「これは……美味いな」
「ははは。当たり前だろ。餅は餅屋さ」

遠くから鐘の音が聴こえる。
卯年の到来を告げる低い音は、どこか頭を揺さぶるようだった。

「あけましておめでとう」
「父さん、その言葉を僕から言うのはちょっと待ってほしい」

息子の言葉の意味がわからず、父はただ続きを待った。

「この12年、地球も色々変わっただろ?それは月だって一緒なんだ。本当に色んなことがあったよ。角ばった石だって川を流れ続ければ丸くなるんだ。実はね、月から特別手当を預かってきてるんだ。新年になったら渡すようにってね。『餅月』を親子2代で勤め上げたのは僕らだけだからさ」

息子が合図するかのようにピョンピョン跳ねると人影が現れた。
月光に切り取られた影の主を見て父は言葉を失う。


「「あけましておめでとう」」


最愛が二つ音を重ねた。
大きな耳がそれを逃すはずもなく、父の目は赤い月のように真っ赤に染まった。

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